暗闇と、川の音と、お月さまと、握り飯。
狐のお面に、やさしいひとに、心地のいい声。
あなたは、いいひと。
あなたは仏様みたいなひと。
あの頃の私の認識なんてものは、きっとこんなものだった。
「羽留姫さま…!俺っ、あなたに裸足で走らせているんですよ…っ」
でも、楽しいでしょう?
びっくりするくらい気持ちがいいんじゃないのかな。
私はすごくすごく幸せだよ、キツネさん。
ただ「羽留姫さま」だなんて呼ばれたことがどこか気にくわなくて、敬語も、急にお姫さま扱いをされたことも。
私はようやく足を止めた。
「はっ、はあ…っ、……ウル、姫さま、」
「それ、嫌です…、やめてくださいっ」
「…無理ですよ。徳川の姫に俺は……なんてことを…」
初めて出会った場所だ。
ふたりで握り飯を食べた場所。
もう、6年も前になるんですね。