「かっわいそうにねえ、夕霧さんも。せっかく身請け先が決まっていたのに子供が生まれたせいで白紙にされたんですって」


「…ああ。知ってるさ」


「それで吉原で無様に死んでいった。あんたのせいでね!!!これで分かるでしょう?寅威っ、あんたは生まれてはいけない、誰も望んでなんか───、っ…!!」



パァンッッッ!!!

彼女の頬を叩いたのは、私。



「なに……すんのよッッ!!」


「…だれに無礼な口を利いているの」



静かなる私の恫喝に、風見姫が息を飲んだ瞬間だった。



「っ!?誰よあんたたち…!!」



襖から入ってきた家臣たちの、しっかりと家紋が入った着物や刀。

それだけで立派な証拠にはなるだろう。




「私は尾張徳川家14代藩主、徳川 慶勝の娘────徳川 羽留。もう1度いいます、……だれの大切なひとに、あなたはそこまで無礼な口を利いているの?」




初めて出した権力と圧力に、風見姫は腰を砕かせるように座り込む。


すでに楼主には話を付けたという知らせを聞いて、揺れる瞳を大きく開いたのは緋古那さんだった。


ごめんね寅威さん。
6年前のお礼、遅くなりました。


私の命を救ってくれたあのときの握り飯の代償にしては、安っぽいかもしれないけれど。

私なりにあなたに幸福をあげたかったの。