徳川の権力が使えるのは今夜だけ。


明日からは自分の足で立って、しっかり歩いていかなくちゃいけない。

私も緋古那さんも。


でも、ただ、あなたを幸せにだけはしたいと思う。



「ふんっ!ほんっとうに失望よ。あんたみたいな吉原から出たら価値もないような男っ、こっちから願い下げだわ…!!」



腹いせに何かをしてくる。

私を守るように腕に閉じ込めた彼は、風見姫さんからの暴言をたったひとりで食らおうとしていた。



「あんたが花魁になれなかった理由、教えてあげましょうか?」



やめて、やめて。
そんなこと言わないで。

わかったふうな口を、知ったかぶりだけで言ってくるのなんて。



「たかが夕霧の子ってだけの価値しかなかったからよ!!あんたなんか生まれなくていい存在でっ、いらない存在なのよ…!」



ちがう。

この人は花魁に“なれなかった”のではなく、“ならなかった”のだ。


友─水月さん─のために、誰よりもやさしい選択をしたのだ。


緋古那さんの腕から離れて、私はうるさい女にまで届く距離を目指す。