「私の本当の名前です」
「……とく、…がわ……?」
「はい。私は、徳川家の姫です」
まっすぐ見つめる。
離さないように、逃げられないように。
あなたの笑顔にはもう、騙されない。
不気味に笑うキツネには、もう。
「これは命令です。あなたは私に買われて、ここを出るの」
徳川の命令に背いたものは───どんな理由があったところで罰せられること。
出なさい。
いいかげん、出なさい。
そんなふうに強気に言えたならいいのだけれど、さすがの私だった。
出てくれますよね…?と、彼の襟をぎゅっと掴んでしまう。
だって、そこまで言ってもなお、あなたは諦めきった顔をしているから。
「私には……”羽”があります。あなたを飛ばせてあげることができる」
2度と揃わない羽だというのなら、私がもう片方の羽になる。
自分で取り外してしまったならば、私が支えて一緒に飛ぶ。