「ウル、いいモン買ってきた」
それから数日後のことだった。
鷹が私の前に、ひとつの風呂敷を差し出してくる。
“いいもの”と言っていたから、きっと魚や山菜といった食べ物なのだろうと思っていれば。
「………これ…」
「買った。前借りとかでもなくて、…もちろんオレが持ってた金で」
なんとそれは、あの日、追い出された呉服屋の店頭に飾ってあった鴇色の着物と帯だった。
「50両…、稼いだの…?」
「まあ、金のことは心配すんなって!おまえが欲しがってた着物だろ?オレだって女の着物くらい買えんだよ!」
ごめん、鷹。
うれしくないよ。
ぜんぜん、嬉しくない。
鷹がこんなにも急に大金を稼げるはずがないって知っているし、それがあるなら私たちの引っ越し費用に当てるのが妥当ではないか。
この着物を買ったお金は……、いったい誰のものなの……?