「キツネさんは水月だ。あいつはすごい奴だ、俺なんか頑張ったって太夫止まりさ」


「…あなたのほうがすごいよ」


「っ…、あいつは優しい奴で、友のためなら自分を敵にすることだって……惜しまないような男だから」


「あなたのほうが…やさしいよ。友のために自分の身を削ったのは、あなただよ」


「……っ」



いとおしい。

あなたの優しさが、不器用さが、こんなにも愛しくてたまらない。



「寅威さん」


「…やめろ…、そんな名前……、存在するだけで迷惑だ」


「迷惑なんかじゃないです。寅威さん、私は何度だって呼びます」



だってこの名前が大好きだから。

唇をぎゅっと結んだ彼は、顔を歪ませながら小さく開いて、ほそくほそく声を乗せた。



「外の世界に初めて行って…、そこで初めて話した子が……きみだった」



ゆっくりと手首が解放される。

震えている彼の声も手も、「ごめん」と謝っているみたいだった。