花魁になる予定だった自分より、太夫になった自分のほうが可能性が生まれると。

そのわずかな可能性に懸けたい気持ちもあったのではないですか。


それは誰にも買われない生を望んだ水月さんとは正反対の。


身請け─解放─される、希望に。



「寅威さん」


「っ、」


「…キツネさんは、あなたです」



気づけなかった自分が恥ずかしい。

どこまでも目の前のものしか見えていなかった自分が、最低だ。


だから今、こんなにも縛られて強引にされたところで私のほうが緋古那さんに最低なことをしているのだから、あなたを責めるつもりもない。



「…なにを言っているの。俺なんかじゃない、それは勘違いだよ」



まだ、この機に及んでもまだ、そんなことを言うんだこの人は。

とっくに私が剥がし取ってしまったというのに、あなたは何にそんなにも怯えているの。


そんな顔をして、そんな嘘を、だれが信じられるというの。