「わかると思うが、羽夏は周りの側室たちから恨まれていた。命を狙われることも多々あったからこそ……殺されてしまうと思ったのだ、産まれた赤子までも」



それほど下級藩主の娘であっただけの母は妬みや恨みを買いやすかった、と。


願って願ってやっとな思いで産まれた赤子が殺されてしまう───、


だったらと、城から出して隠れた場所で育てるしかなかった。

いないものとして、育てるしか。



「…すまない。おまえのことは死産だと、周りには言っていた」


「……かか様やとと様…、知っている人には……知ってもらえていたのですか…?」


「もちろんだとも。久兵衛もそのひとり。俺の側近である家臣たちは、羽留という存在を忘れたことなど片時もなかった」



ここは安全。
16年も経っているんだ。

まさか私が死産だと言われていた赤子だとは、だれも思うまい。