「────羽留姫さま」



先ほどまで調子よく笑っていた男性が聞き慣れない呼び方をして、膝をつけてまで頭を下げてくる。


まるでどこかのお姫さまに敬を払う家来みたいだ。


姫さま……?

いまこの人、そう言った……?



「お会いしとうございました。…あなたが赤子のとき以来なので、覚えていなくて当たり前です」


「……赤子…?」


「はい。私は尾張(おわり)徳川家から参りました」



思わず鷹のそでを掴む。

鷹も鷹で何かから守ろうとしているのか、震える手で私を壁際まで移動させた。


徳川、って……。


その名前だけはどんなに貧しい生活をしている庶民だとしても知っている。

むしろこの国に住んでいるならば、知らなくてはいけない名だ。



「まずは尾張徳川家をご存知でしょうか?」


「……将軍さま、の、」


「はい。徳川御三家(とくがわごさんけ)のひとつにございます」