「婆や、俺はウルを誰よりも優先すると言ってあったはずだよ」
「……風見姫(かざみひめ)様にございます」
「……………」
名前を聞いた途端、緋古那さんが迷ったのが伝わってきた。
“姫”が名前についている時点で、その女性の地位を表している。
大富豪の娘か、名のある藩の姫か。
武家の娘以上の価値ある女性ということだ。
「ごめん、ウル。すこし席を外すけれど、翔藍と右京と楽しんで」
さすがに引き留めてしまう。
彼の袖口をきゅっと握って、「行かないで」と。
ここは女がワガママを言っても許される。
男のひとを困らせてもいい場所。
……お金さえあれば。
「お金っ、持ってきました…!」
巾着袋に詰め込んだお金を懐から取り出す。
あなたから頂いた金色と、自分でなんとか稼いだ銅貸。
足しにすらならないことは分かっている。
この場所からしてみれば、私が汗水垂らして稼いだお金など、しょぼくれていることも。