「櫛(くし)や紅、鷹くんはお嬢さんに渡してあげたいとは思いませんか?」



そういえば櫛で髪をとかしたことなどあっただろうか。

紅なんて、店に並んでいるものを見つめるだけ。


ずっと気になっていた部分に触れられてしまったのか、鷹は唇を噛み締めてこぶしを固く固く握っていた。



「金があったって……、金があったってな…、死ぬやつは死ぬんだよッ!!」


「鷹く───」


「帰れ!!!」



バンッッ!!


力強く閉められた戸。
すぐにドンッと蹴られた音が追いかける。

それだけで鷹の葛藤や気持ちが痛いくらい伝わってきた。



「…もうこちらには伺いません。ですが、そういう場所もあるのだとお嬢さんには知っておいてもらいたい」



そう言って渡された、1枚の切手。

これは“特例切手”というものらしく、楼主(ろうしゅ)の紹介ということで金を払わず1度だけ男を買える特別な招待券だという。


そこは裏吉原(うらよしわら)───最後にそれだけを伝えて、男たちは去っていった。