「俺たちは互いにそれだけは望めないと分かっているから、せめて花魁になった」
花魁になれば客を選べる立場になるだけじゃなく、そうそうには身請けもされない。
そこには桁違いの金が必要になるからだ。
どんな大富豪が現れない限り、嫁にも婿にも行かないという───ただひとつの愛。
「だがそれよりも厳しいのは……緋古那だろうな」
「…厳しいって、」
「あいつは特別だ。あいつそのものが価値でもある」
水月さんと須磨さんの前にはだかる壁よりも、私と緋古那さんの前にはだかった壁のほうが高いと。
彼は言っているようだった。
「たとえ周りに隠されていようと……それがどんなに価値ある置物かを知っている奴らからすれば、そばに飾っておきたいだろう」
隠されている……?
隠されて育ったひとのことを、私は彼から聞いた。
キツネさん(寅威さん)の話として。
「緋古那さんは……、夕霧という女性の子供ですか…?」
それをあの人はキツネさんだと言った。
でも私は、水月さんにこんな聞き方をした。