「…水月さん」



そして私は、残ったひとりの名前を呼ぶ。



「身請け金というのは…、幾らほど必要なんですか…?」



もう2度とそんなことを言うなと叱られ、殺すとまで言われたかつての私。

今の水月さんはきっと怒らないと分かっていたから、私は言えたのだ。



「……わからない。俺ですら予想ができない大金ということだ」


「でも、そのお金を用意したなら…、あの場所から解放することは絶対としてできるんですか…?」


「できる」



飛ばせてあげることができる。
羽を揃えて、めいっぱい。

私がそう願う男性は今、だれを待って、どうしているだろう。



「水月さんは……、水月さんは須磨さんと…どうなりたいのですか」


「…おまえと同じだ」



初めて目を合わせてくれたような気がした。

どんなに合わせようにも合わなかった、その目と。



「だから俺はあのとき、自分に対しても腹が立ったんだろうな」



無謀すぎる夢だと。

言葉にするだけ残酷で、願えば願うほど遠くへ行ってしまう。