「あの子は“トラちゃん”と、名付けます」
これからも私の家に置いておくのだから、名前を付けてあげなきゃ可哀想だ。
トラちゃんトラちゃんって、明日から毎日話しかけよう。
そうすればあの子は存在していい理由になる。
だれよりも優しい幸福を与えてくれる、私の神様。
「……緋古那さん、」
あなたはとても静かに泣くんですね。
行灯の明かりがなければ、私はきっと気づけなかった。
ああして無理やりにでも引き剥がさなければ、知らないままだった涙。
「あんなの、みんな必要ないから行燈部屋に置きっぱなしだったんだ」
「…はい」
「でも、他に捨てられなかった理由だけはあったんだろうね。だから…ああやってせめて隠していたんだよ、見つかるほうが厄介だから」
「…はい」
でも、私が貰いました。
あのトラちゃんは私が貰ったんです。
大切にします、誰よりも。