代わりだなんて、ちがう。

こんなに綺麗にしてもらったのだから、今日の私はいつもの私とは違うんだと思い込む。


思ったより声が出た私に、緋古那さんは困ったように眉を下げながら髪を撫でてきた。



「水月さんはキツネさんじゃ、ない…」


「…キツネさんだよ、あいつは」


「違います。それだけは、ちがう」



ならどうしてあなたが被っていたの。
どうしてあなたは泣いていたの。

あんなにも苦しそうで切なそうな涙を私に見せてしまったの。


あのとき、あなたは本当は私に何を言いたかったの……?



「名前……、決めました」


「…なまえ?」


「はい。やっと、決まったんです」



あの置物の名前を。

鷹がいなくなった寂しい家に新しく来てくれた、虎の置物。


獅子だと小間物屋の店主は言っていたけれど、あれは虎なの。


誰がなんと言おうと、トラ。