「涙に、やられました」
これはあなたも私に言った台詞(ことば)だ。
女なら誰でも、あの涙にはやられる。
私はあの日からずっと、あなたのことばかりを考えてしまってしょうがないの。
「床に、いきますか…?」
肩にそっと手を置いて、耳元でささやく。
隣の襖の先は、すでに用意されていた。
ここまで通い詰めて、今まで1度もあなたと使ったことがない部屋。
「………そこまで仕込ませているだなんて。水月は殴るじゃ済まないな」
そうじゃないことくらい、わかっているくせに。
私の緊張が伝わっているのは唯一として緋古那さんだけだ。
声も手も、流暢にはいかない。
「今日のきみは、俺だけのものだということかい」
「……はい」
「…へえ」
「っ、」
男の人の顔をした。
この見世に身を置くには正しい顔をして、彼は逆に私の耳へと唇を寄せてくる。