「俺のためにあいつは譲ったんだ。周りに適当なことばかりを言って、わざと俺より下を演じてまで。…そういう男だ、緋古那は」
彼ならやりそうだと、やってのけてしまえそうだと。
実際は水月さんより知恵もあり、芸事にも長けていたという。
彼の嘘は痛いくらいにひどく、優しいものだ。
「水月さん…、もし鷹が私のもとに帰ってきたら……あなたにいちばんに知らせます」
それくらいしかできない。
私には、それしか。
目を微かに開いた彼は眉を寄せ、小さく「ありがとう」と。
そして「すまなかった」を続けた。
この人じゃない。
キツネさんは、この人ではない。
それだけは絶対としていた。
「あいつにとって誕生日というのは嬉しい日ではないと、ずっと言っていた。…だから今日はおまえが緋古那をもてなしてやってくれ」
「……はい」