「……でも…、こんな髪の女には似合わないのではないですか…」
紅を付けてくれたり、着物を着させてくれたり、化粧をしてくれたり。
本当にこの場所は女に夢を見せてくれる場所だ。
だとしても私はここまで与えられるような女ではないと、やっぱり怖くなってしまう。
「…そうでもない」
くるりと髪をいじられて、スッと通された花かんざし。
これで完成だと、水月さんは今まででいちばん柔らかく微笑んだ。
それが嘘だとしても、そうじゃなかったとしても、鏡に映った私を作ってくれたのは紛れもなく彼なのだから。
「こんなこと……、されていい女じゃないのに…っ」
「泣くな。せっかくの化粧が落ちるだろう」
だって、だって。
憧れていたすべてが鏡のなかにあるのだから。
女なら必ず、1度は、夢をみる姿。
「この裏吉原で花魁となるべきは、緋古那だった」
そして水月さんは静かに話し出す。