私をだまくらかすときは巧みすぎる話術で言いくるめて、目的のためなら手段を選ばない非道さを持っているというのに。
ここぞというときほど、足りない。
「…行っておいでウル。今日のこいつは悪い顔をしていないから。というより、断り続けるぶんだけ引き下がらないつもりだろうね、こいつは」
そう言われたから。
緋古那さんにそう言われたから、私は従っただけだ。
でも今日だけはぜったい返してよ───と、水月さんへと鋭く付け足された。
了承した返事を聞いてから、私もその場を離れる。
「………あの……、これはどういう……」
「緋古那の趣味はこの色か…、よし、着替えてくれ」
ずらりと並んだ着物たちから彼は選出させ、私に「着ろ」と命令してきた。
緋古那さんを奥の一間で待たせ、彼はいったい私に何をしてくるだろうと思っていれば。
「おい、化粧師(けわいし)は居ないのか」
「申し訳ございません。本日は上客が幾人も訪れておりますゆえ、そちらの郎子に回っております」
「…わかった」