ウル。
詞の響きも決して良い名前だとは思えなかった私に。
いい名前だと、言ってくれたひと。
キツネさん。
あなたの名前も、すごく良い名前です。
「寅威さん。私はこの名前がとても好きです」
「……そんなこと言ってくれるのはウルだけだ」
「…え?」
「いいや。そろそろ冷えてしまうから戻ろうか。……お、」
水月花魁殿───、
緋古那さんが顔を逸らした先に、ちょうどこちらへ歩いてくる月のような花。
思わず緋古那さんの背中に隠れてしまった私は、どんな顔をしたらいいかと必死だった。
「探していた」
「え、俺を?」
「…緋古那、なにか欲しいものはあるか」
「欲しいもの?なんだよいきなり」
本当に水月さんは緋古那さんを探していて、緋古那さんに用があるらしかった。
欲しいものを聞かれ、彼は「とくに」と言って首を横に振る。