「こんなに広いんですね」


「一応はぜんぶ繋がってるからね。ほら、こんなところにも扉があったりして」


「ふふ。からくり屋敷みたい…」


「ちょっと入ってみようか」



簡易的に作られた扉だと思えば、じつは楼内の隠れ部屋に繋がっていたり。

この先には何があるんだろうと高ぶらせてくる裏通路ほど行き止まりとなっていたり。


そして最後にたどり着いた場所は、彼のお気に入りのひとつだという中庭だった。



「そろそろ咲きそうだ」



薄紅色をした春の象徴。

彼はこの木の変化を見つめ、四季折々を感じているのだと。


郭のなかにある、切なさと無常。



「花が咲いたら……ここに来ます。緋古那さんと一緒に、ここでお花見したいです」


「…きみはもっと自由に見上げられる場所のが良いのではないかな」



そんなことはない。

もしそこにあなたがいないのなら、私にとって満開の桜に色はつかない。


ここにあなたがいるのなら、何よりも自由に見上げることができる。