「それでは。ごゆるりとお楽しみくださいまし」


「あっ、あのっ」


「どうかなされましたか?」


「…緋古那さんは、いつ頃こちらにいらっしゃいますか…?」


「…この舞が終わる頃にはと」


「そう…ですか」



いつもならば入り口で待ち構えてくれていて、穏やかに「いらっしゃい」と本人が言ってくれる。

しかし今日、そんな彼の姿はなかった。


私はすでに大海屋の通人ということで禿たちには通っているらしいので、先に2階の座敷に案内されて今。


私にとっての一張羅でもある思い出の着物をまとい、この前までにはなかった別の緊張を持ってやって来た。



『どうして……緋古那さんが…』


『……餓死していれば良かったなんて、そんなことを言ったらいけないよ』


『っ、だって、』


『だめ。そんなこと、ぜったい』



あのあと私が投げつけた着物を拾って、『本当に要らないのかい』と、彼はやさしく問いかけてきた。

ぶんぶんと首を横に振った私に返された着物と渡されたお金、それからひとつの握り飯。