「健康状態は問題なさそうだな。女関係も清く、上等だ」



ボソリと、片方が連れていた片方へと言う。

聞こえてしまった私は途端に不安と恐怖が込み上げて、すぐに家のなかへ入ろうとした。



「お待ちください、お嬢さん」


「っ、」



いやです。

ぜったいに、首を縦に振ることだけはしません。

たとえどんなものを出されたところで、私は大切な家族を売らない。



「おい、例のものを」


「はい」



静かに命令が下されると、背中に控えていたひとりが重量のありそうな箱を目の前に出してくる。


パカリ。

玉手箱のように、それは開かれた。


彼らはこういった引き抜きを生業とする女衒(ぜげん)なのだ。



「ここに300両あります」



初めて見る、小判。

本当に黄金色をしているんだと、私からいちばん遠かったものだ。


1両さえ手にすることは夢のまた夢だというのに、いま私の前には300枚もの光沢が輝いている。