今回提案した条件だって、この子は騙されたままに了承してくれてしまった。
「なぜそんなにも自分を隠す?…存在してはならない人間だからか」
「うるさいな」
黙れ───と、俺にしかない権力で花魁を黙らせた。
所詮は俺なんか、虎の威を借る狐ってところだ。
「花魁はどうしたって手にできない。けど……太夫となると、こちらとしては不都合なんだよ」
「…“もしかすれば”が、あり得るもしれないからか?」
「……普通の太夫であれば、ね。いいや、だとしても身請けなんて莫大な金が必要だ。ただ……俺の場合はどちらにせよ、だめ」
だから花魁を追いかけてくれたほうが助かる。
それにどんなに追いかけて焦がれたところで、水月を手に入れることはぜったいに叶わないと確信があるからだ。
水月の心を今も昔も埋めているのは、もうひとつの吉原で生きている最高位の女なのだから。