「単純にあのときはおまえが惚れた女と話してみたかった」
「……わかったようなことを」
だれがおまえの脱走を庇いつづけてきたと思っているんだ。
だれがおまえを、花魁にまでのし上がらせたと思っているんだ。
なのにおまえときたら、せっかくこの子に付けてあげた紅を乱暴に拭って「似合わない」だなんて。
「あれ、かなり腹が立ったよ俺。紅すごく似合っていたじゃないか」
「おまえをからかっただけだ」
「……7歳のときから変わってないよね?きみ」
「手紙を送ろうと思ったのは本当だぞ」
そこは疑っていないけれど。
この男との文通を最初に提案したのは12歳の俺なわけだし、渡された手紙には最近の様子がしっかりと綴られてもいた。
19歳になった今でも当たり前のように続けているのが、こいつの可愛いところでもある。
としても初めて紅を付けた初対面の女に“似合わない”というのは、花魁としてもいかがなものか。