おにぎりを真っ二つにしてから私にぜんぶ譲る言い訳を考えるようなひと。


水月さんはきっと、真っ二つにする前に渡してくれるくらいには器用そうだから。

その器用さに、あの夜まんまと騙されたんだ私は。



「あのう…、お嬢さん、すこし道をお尋ねしてもよろしいでしょうか…?」


「え…?…はい」


「言いにくいのですが……吉原は、どこに…?」


「……………」



とくに変装もしておらず、引き抜きを生業にする女衒でもなさそうだった。

本当に趣味で通いたいがために私にたまたま道を聞いてきた尋ね人といったところ。



「…少しだけ歩きますが、ここの川沿いをずっと進んで、2つ目の橋を渡ってください。そうすると商店街が───」


「……申し訳ない。私はどうにも暗記というものが苦手でしてなあ…、途中まで送ってもらえたりはしませんか…?」