「……おいしい…」
「まずい」と言ってやろうと思って食べるときほど、美味しさを感じてしまう。
パクっとかじって、涙が出て、止めさせようと思ってまた齧る。
悪循環というものが私の人生には付き物なんだとも思ってきた。
緋古那さんのお金は誓ったとおり、使っていない。
あのお金があれば吉原の門を潜ることも簡単だが、私は行く気にはなれなかった。
「会いたい」と言ってくれた緋古那さんの気持ちだけで、なんとか生きているような日々。
「どうしてっ、そんなことしてくるの……!!」
そして今日という日。
おもいきり戸を開けた音に、こちらへ向かってきていた足取りは止まった。
ようやく、やっとだ。
その姿を見ることができたのは。
音が聞こえるまでを待っていた。
徹夜してまでも、その日に来なくとも、それくらいまでの心意気で。