仕置き部屋で済むだろうかという不安を打ち消すほどの、たしかな幸福。
『すい、げつ……っ』
『…俺の本当の名は、』
『────、』
『……ああ、江奈(えな)』
そうだ、私の本当の名は江奈だ。
あふれる涙、初めて抱いた愛しさ、重ね合わせた体温。
彼がいるならば、あの郭のなかでもいい
と。
そして私は吉原の一番星になることを、花魁になることを水月と約束した。
「───…こうしてふたりは、永遠の愛を誓ったのでした。……おしまい」
「え…?ここで終わりなのでありんすか…?須磨花魁っ、その月くんと花ちゃんは一番星になれたでありんすか?」
「…なれんしたえ。けんど、もっとお互いに恋しくもなりんした」
簡単には会えなくなった。
それから女郎と郎子として一人前になるまでの4年間は徹底された生活。
そしてやっと、やっと、花魁になった今。
シャリンシャリンと鈴の音、ペンペンと鼓の音。
噂では吉原より価値があるとまで言われている、裏吉原の花魁道中。