真っ暗だった。

外の世界も吉原も変わらないと思うほど、真っ暗。



『なんのためにっ、なんのために私は吉原に売られたの……っ』



私を売り出す引き換えに金を手に入れたはずだ。

庶民が手にするには溢れ出るほどの身代金を。


一家心中……?


金があったとしても、死ぬ人間は死んでしまうのか。

生き残った鷹が本当にいるかどうかも、わからない。



『…須磨』


『ここで…、いつもみんなでご飯を食べていたんだ』



雨が降ってきた。

そろそろ帰らなくちゃと言いながらも、私は膝を抱えて座りこむ。


帰る場所なんか、もうどこにもないんだ。


あの場所は食事も出る、布団もある、着るものも囲炉裏も。

………吉原しか、私にはない。



『須磨。吉原で唯一、客を選べる立場があることを知っているか』


『…えらべる、立場…?』


『ああ。そこに立てさえすれば、客を断ることができるのだと』