私は引き取られた当初から“須磨”を貰っているため、これが源氏名だ。

せっかく伸ばしていた髪を出会ったばかりの頃のように切り落とした私を前に、水月は心配そうに見つめてくる。



『…もうすぐ水揚げをさせられると聞いた。そんなのぜったい……嫌だ』



水揚げとは、初めて客と寝床につき、処女を喪失するということ。

その行為自体を商売道具にして金を稼ぐ、この見世のやり方だと知っている。


幼い頃から男勝りだった私は、自分にとっていちばん女郎というものが似合わないタチだったことは自負している。


だとしても郎子である水月よりも、女郎である自分のほうが水揚げに対する思いは強いはずだ。

女の初めては一生だと、姉様たちも言っていたのだから。



『もう私……本気でこの場所を出ようと思ってるんだ』


『…出て、行く宛てはあるのか』


『……ひとつだけ、ある』



10歳まで住んでいた家だ。

家族4人と住んでいた家が、ここから半日ほど歩いた場所にある。


むしろそこしか宛てはない。