振り向きたくとも振り向けられない空気感と、できれば演奏を続けて欲しいと振袖新造たちを睨んでしまいたい本心と。


………そこに、いる。

花魁が、この部屋に来たんだ。



「ちょうどお取り込み中だったんだけれど。嫌がらせと思っていい?」


「…その女は今日は俺のものだ。借りるぞ」


「きゃ…!」



膝から腕へ。

ひょいっと浮いた身体は、気づいたときには水月さんに抱えられていた。



「…やさしくしてあげてよ、水月花魁殿。俺の一等客なんだから」


「約束はできないな」


「おいおい」



もっと追いかけてくれればいいと、緋古那さんを責めたくなった。

一等客だと言ってあんなにも可愛がってくれたのなら、あっけなく水月さんに譲るのではなく。


これが花魁と太夫の差だと見せしめたかったのか、水月さんは颯爽とどこかへ私と一緒に進んでいく。