私と翠くんが出会ったのは、一年前の都立図書館・自習室。
それはまだお母さんが再婚する前、つまり、お兄ちゃんができる前のこと。
そのとき勉強が苦手な私を心配したお母さんが塾を検討し始めて、ただでさえ家計が苦しいのに塾のお金まで出させるわけにはいかない!と、私は放課後図書館の自習室に通うようになった。
その自習室で、いつも窓際の一番前の席に座る私の隣の隣の隣、扉側一番前の席に座って静かに勉強していた男の子が、翠くんだった。
翠くんとは、なぜかよく目が合った。
今にして思えば、常に凛とした空気をまとう美人な男の子に私がついつい目くばせしてしまっていたからだと思う。
勉強のふとした合間、彼がテキストに集中してるのをいいことに横目で見ていると突然目が合って、慌てて逸らす。そういうくだりを一日一回は必ずしていた。
それを繰り返して、心の中で私は彼のことを『図書館の王子さま』と呼ぶようになっていた。