その夜。 ご飯を食べてお風呂に入り、いつものように自分の部屋に入って今日の宿題を机上に開いた。

「……はぁ」

 だめ、全然手につかない。
 時計は十九時四十分を指している。
 当然眠い時間でもなくて、SNSをチェックする気にもなれず、私は机に顔を突っ伏した。
 頭の中を、モモの敵意に満ちた顔やルリの怯えた顔、翠くんの優しい声が渦巻いている。
 翠くんは安心してって言ってくれたけど……これからどうなっちゃうんだろう。
 
 そのとき、スマホが通知を知らせた。翠くんから電話だ。通話ボタンを押して、なるべく声を潜ませて「もしもし」と言う。

《もしもし。いまちょっといい?》
「うん。何か用事?」
《いや……ちょっと声が聞きたくて》

 翠くん、昼間の件で心配してくれてるのかな。

《いま、なにしてた?》
「部屋で勉強……しようとして、やる気出なくてボーッとしてた」

 冗談まじりに言ってみせると、翠くんが笑ってくれる。

《……苺花。カーテン開けられる?》