これ以上普通にしていられる自信がなくて、私はその場から逃げ出した。
 部室棟を出て、部室棟裏でひとりしゃがみこむ。

 翠くんが女の子を襲うなんて、ありえない。
 ぜったいなにかの間違いだ。
 でも……ルリの怯えた表情は嘘を言ってるようには見えなかった。
 なにより、ルリは小学校からの仲良し。
 ルリがどれだけ優しくていい子か、私はよく知ってる。
 どうしてルリは翠くんに襲われた、なんて言うの……?もう、意味がわかんない……。

 私はポケットからスマホを取り出した。
 今朝、おはようって連絡しあってから返事は来てない。
 どうしても声が聞きたくなって、通話ボタンを押した。
 数コールの呼び出し音の後、プツッと音声が切り替わった。

《……もしもし》

 その優しい声が耳に届くだけで、やっぱり胸がぎゅう、と切なくなった。

《苺花?》
「翠くん……っ」
《どうしたの?なんかあった?》

 翠くんが女の子を襲うなんてそんなひどいこと、するわけがないってわかってる。
 でも、ちゃんと翠くんの口から聞きたい。