うそ、怒った?
 いくら彼氏でも、男の子に対して可愛い、は失礼だったかな。
 謝ろうと息を吸った時、まっすぐな眼差しの翠くんが言った。

「可愛いのは苺花だよ」
「……!」
「可愛すぎて困るよ、ほんと」

 翠くんはあいてる右手で私の髪に手をのばすと、それを掬ってそっと耳にかけた。
 耳に少しだけ翠くんの手が触れる。
 ドクン、ドクン、ドクン。
 ……どうしよう、どうしよう。
 心臓、やばい。


「もう最悪!なんで忘れるかなー」



 廊下の遠くの方から女の子の声がした。

「いざ部活はじめようと思ったらラケットないんだもん~」
「カナってほんとおっちょこちょいだよねー」

 ラケット……テニス部?それにカナって名前に、あの高めの声は……
 私は勢いよく立ち上がった。

「クラスの子かも!翠くん、隠れて!」

 慌てて翠くんの手を引っ張って隠れ場所を探す。
 直後、ガラガラッと教室の後ろ戸があけられる。