……わぁ。
 会いた過ぎて、翠くんの幻聴まで聞こえてきちゃったよ。
 私、自分が思ってる以上に参ってるのかも……。

「いーちか」

 ……ん?

 私はゆっくりと振り向いた。
 そこにいたのは、この学校の制服を着て微笑む、王子さまみたいな人。

「……!?」

 驚きすぎて腰が抜けそうになって、思わず後ずさって渡り廊下の柵にガシャンとぶつかる。

「す、す、すす、」

 私が会いたくて会いたくて仕方なかった人が、まさにそこにいた。

「翠くん!?」

 うちの制服を着た翠くんが、困ったように笑った。

「ごめん。会いたすぎて来ちゃった」

 そう言って私に手を差し伸べる姿は清涼感たっぷりで、いつだったか消しゴムを渡してくれた王子様の姿と重なった。

 ほ、ほんもの、だ。
 本物の翠くんだ。
 今朝画面で見た翠くんより、ずっとずっとかっこよくてキラキラ眩しくて。
 胸からキュゥ、と音がした。

「っ……、反則だよ翠くん~……っ」

 私は翠くんの手に自分の手をのせながら、その場にへなへなとしゃがみこむ。

「?」

 ……知らなかった。
 人って、ときめきすぎると泣きそうになっちゃうなんて。