その時、奥の非常階段の扉が開いた。
 カツン、と硬い靴の音が廃工場に反響する。

「何してんの」

 その瑞々しく落ち着いた声に、その場の空気が一気に張りつめた。

「総長……!」

 一斉にその場にいる新入りたちが集まって背筋を伸ばしたので、床にぺたんと座る私の位置からその姿は見えない。

「人質取ってこいなんて頼んだっけ。連れてきたの誰?」

 ……龍乱會の総長。
 半年前、当時一年生だったにも関わらずJesus(ジーザス)っていう都内一凶悪な暴走族チームを一人で潰し、一夜で龍乱會のトップの座についたって話題になっていた。
 そんなすごい人が、今あそこにいるんだ。

「龍乱會の名を汚すようなやつ、うちにはいらないよ」
「ひっ、す、すいません!!」
(だい)。しつけがなってないんじゃないの」
「すいません。よく言っときます」

 (だい)、と呼ばれたその人はちょうど私の位置から見えるところに立っている。他のメンバーよりガタイが良くて、街で肩がぶつかったらどんな不良もダッシュで逃げ出しそうな、切れ味の鋭い顔立ちをしている。
 そんな強そうな人がかしこまって頭を下げる、龍乱會の総長……あの(だい)さんって人より強いってことだよね。 いったいどんな人なんだろう。