しばらくして橙の気配がなくなると、僕は大きくため息をついた。
 肝が冷えた。いつまで隠し通せるだろうか。
 もしバレたら……きっと藤堂三兄弟の耳に入って殴り込みに来るだろう。下手したら苺花を巡って抗争に発展するかもしれない。
 そうなったらお互い無傷では済まないし、どっちに転んでも苺花は気に病むだろう。それは避けたい。
 とにかく不仲の原因を調べないと。
 そんなことを考えていると、スマホが通知を知らせた。
 〝いちか〟という差出人を見ただけで、顔がほころぶ。

 【翠くん見てっ!友達に可愛いクッキー貰ったよ~】

 ハート型のクッキーを手に嬉しそうに笑う苺花の写真が添えられている。
 
「……やば」

 不意打ちの苺花の写真に、思わず声が漏れた。
 可愛い。可愛すぎる。世界一可愛い。
 勿論クッキーじゃなくて、彼女が。
 ロック画面に設定したい気持ちをなんとかおさえて、苺花に返事をしようと文字を打ちこんだ。

【会いたい】

 なんて、仕方ないことを打ちこもうとして、やめる。
 まだ3日しか経ってないのに、もう会いたいなんて。
 そんなこと言っても困らせるだけだってわかってるから、可愛いね、クッキーおいしそうだね、とかありきたりなメッセージを打ちこんだ。

「はー……」

 電話ではかっこいいこと言ったけど、しばらく会えないとか、正直ムリ。会いたい。会って抱きしめていっぱい愛でたい。もう苺花不足で死にそうだ。
 でも今は、我慢の時。
 一刻も早くERRORsとの関係を修復して、堂々と苺花を迎えに行こう。