小さく手招きすると、翠くんが身をかがめて私に耳を寄せてくれる。
 手でメガホンをつくって、翠くんの耳にコソッとささやく。

「きっと三十分じゃ足りないから、こっそり会いに行くね。お兄ちゃんたちには内緒で……!」

 照れくさくて、ついフフッと笑ってしまう。

「……っ」

 すると翠くんは左手で顔を隠して、へなへなと崩れ落ちた。

「わっ、翠くん!?」

 突然地面にうずくまってしまった翠くんに困惑していると、橙さんがぼそっと言う。

「すげぇ……翠さんを一発で沈める人初めて見た」

 どういう意味かわからなくて首を傾げていると、突然翠くんにパシッと手首を掴まれた。

「わっ?」

 翠くんが顔をあげて私を見て、真剣な顔で言う。

「逃げよっか。お姫様」
「へ」

 翠くんは真剣な顔から一変(いっぺん)、いたずらを仕掛ける子供みたいにニッと笑った。