「……クク、ククク」

 怒って向かってくるのかと思えば、再び笑い出した安護に戦慄する。

「卑怯者だからいいこと思いついちゃった。女に手出した方が翠ちゃんにはこたえるもんな?」

 ……! 
 安護が私の方に歩いてくる。

「やめろ!!」

 翠くんが必死の形相でもがくけど、安護は心底嬉しそうな顔で私に近付いてくる。

「いや……っ」

 逃げ出したいのに、ニヤニヤ笑う安護に、恐怖で体がうまく動かせない。
 どうしようもない状況に、ギュッと閉じた目尻に涙が滲んだ。

 そのときだった。

 ミシミシ……と、なにかの軋む音がした。
 何の音かと安護が動きを止めた直後、
 ブチィ!!
 破裂するような音に咄嗟に目を向けた。

「――は?」

 翠くんの体を縛っていた縄が、パラ、と下に落ちている。
 翠くんの近くにいた安護の仲間が、腰を抜かしてそこに尻餅をついた。

「なっ、縄を引きちぎりやがった……!」

 全員が唖然とする中を、翠くんは肩で息をしながら歩き出す。