『あの……名前、聞いてもいいですか』

 わかってるのに聞くなんて卑怯かなって思ったけど、〝翠〟という字が〝ミドリ〟なのか〝スイ〟なのか知りたいのもあって、知らないふりをして聞いた。

『はねむらすい、です。 いちかちゃん、だよね』
『え!?は、はい、いちかですっ! どうして名前……』
『あ、ごめん。前にノートの表紙に〝いちか〟って書いてあるの、見ちゃったんだ』

 そう困ったように笑う翠くんに『そうだったんですね』と相槌を打ちながら、翠くんも私のこと気にしてくれてたのかなって自意識過剰なことを考えちゃって、顔が火照った。

『どういう字書くの?』
『苺の花って書いて苺花(いちか)、です』
『苺の花で、苺花(いちか)……』

 翠くんに復唱されて、無性に恥ずかしくなった。

『あ、なんか、可愛らしすぎて私には似合わないですよね……!あはは』
『えっ、すごく似合うよ。苺花ちゃん女の子らしくて可愛いなっていつも思っ……あ』

 しまった、と言わんばかりに慌てて口を塞いだ翠くんは、私の視線から逃げるようにパッと顔をそむけた。

『……ごめん、変なこと言った』

 少ない街灯の明かりだけでもわかるほどに翠くんの耳が真っ赤になってて、つられて顔が熱くなった。
 なんとなく、翠くんも私を気になってくれてるのかなって、思った。