都内の頭がいい人しか行けない私立富香(とみか)中学校のクリーム色のブレザーを着る王子さま。
 彼はいつも私より早くいて、いつも私より遅く帰る。
 通りがかりにたまたま盗み見てしまった彼のテキストは、難しくて何が書いてあるかよくわからなかった。
 ある時、席が埋まってた関係で彼が隣の席に座ることがあった。
 あまりの近さに緊張した私は、彼が席に座って五秒後、手が滑って消しゴムを落とした。
 ……王子さまの足の下に。
 
 『すっ、すすすすすいません……!』

 恥ずかしさで涙目になる私に、図書館の王子さまはそれを拾って優しく微笑み『どーぞ』と私の手に置いてくれた。
 恋に落ちないわけがなかった。
 そして〝図書館の王子さま〟が〝羽根村 翠〟っていう綺麗な名前だって知ったのは、そのときちゃっかり盗み見た机上のノートのおかげだった。