「永華ぁ…、辞書貸して~」

次の日も来ちゃった、半泣きで。

「えっ、今日も忘れたの?」

「忘れたっていうか、お兄ちゃんが辞書持って行っちゃって今ないの!」

1人暮らしをしてる大学生のお兄ちゃんはたまーにやって来てはテキトーに帰って行く。それは全然いいんだけど、リビングに置きっぱなしだった私の国語辞典を持って行っちゃたらしいんだ。

おかげで半泣きにもなる。

「しかも来週じゃないともうこっち来ないって言うの!」

「えー…それは災難だね、てゆーか電子辞書じゃないんだ?大学生でも紙の辞書引いたりするんだ」

「ううん、それが…」

教室のドアまで来てもらった永華を前にしょぼんと肩を落として、はぁっとタメ息を吐く。

「最近スマホの充電器の調子が悪いから押さえておく重し探してたんだって…」

「使い方が正規の辞書の使い方じゃない」

とっとと充電器買い換えてほしい。しがない大学生お金がないとかで充電器も買えないんだって、そのせいで辞書がない私はもっと困ってる。

「だから申し訳ないんだけど、しばらくの間貸してくれない!?授業の間だけだから、終わったらすぐ返しに来るから!」

パンッと手を合わせてきゅっと目をつぶった。
目をつぶったのは何となく勢いで、どうかお願いします!という気持ちを込めてお願いした。

「あー…、ごめんね」

「えっ」

「今日現国ないから持って来てないんだよね」

えぇ~~~~~~~!!!?

もう永華しかいないと思ってたのに…っ 

他のクラスに友達なんていないから、こんな時友達少ないと不利すぎる!

「貸したい気持ちは山々なんだけど物がね、ないから貸したくても貸せないんだよね」

申し訳なさそうな顔で永華に言われたけど、悪いのは私…じゃなくてお兄ちゃんだしないものを貸してもらうのは不可能だもんしょーがないよね… 

半泣きだった瞳が本泣きになりそうだけど、源本先生からのペナルティーも嫌だけど忘れましたって言うことがまず嫌なんだもん!お兄ちゃんのばかばか最悪!!