ジャーヴィスからグラスを受け取ったイアンは、ゆっくりとブランデーの芳しい香りを楽しんだ。


「焚き付けるとは、穏やかじゃないですよ、先輩」

「何が先輩だ、白々しい。
 今日は午後に来たらしいな?
 焚き付けたが不満なら、どう言えばいい?」

「激励とでも。
 俺はアダムス夫人を励ましただけ。
 夫人は、レイウッド伯爵夫人とは呼ばないでと仰せになった。
 これって、例の義弟とは再婚したくないと言うことと、受け取らせていただいたけど?」


 イアンの言葉に、ジャーヴィスは鼻で笑った。
 母や妹には絶対見せない、冷酷な微笑みだ。


「俺もあんな、口だけ達者で、何も出来ないボンクラとは再婚させたくない。
 それで何を励ましたんだ?」

「レイウッド伯爵の汚名を晴らしましょう、とか」

「スチュワートの汚名を晴らすか……珍しいな、敵に塩を送ったのか?」

「亡くなったひとは恋敵ではなくて、一生勝てない相手だ。
 それなりの敬意を持ってるし、彼女を置いていくのは無念だったろうし、気の毒に思って」

「……」

「俺なら、彼女に自分以外の女が居たなんて思われるのは、死んでいても耐えられない。
 もし、その誤解を彼女が晴らしてくれたなら、こんなに嬉しいことはない」


 ジャーヴィスが恋愛遍歴が華やかなイアンを、いい加減な男だと思えないのは、彼にはこんな一面があるからだ。