「普通ならこんなお家騒動を起こせば、下手すれば領地は没収される。
 だが、王家は見逃してくれた。
 それだけエルネストの2年戦争に於いての功績が素晴らしいものだったんだろう。
 きっと、エルネストが後継者になる方が国にとって都合が良かったのだと思う。
 だが、レイウッド領内はボロボロだった。
 それで彼等は誓ったんだ、二度とこんな風に身内で戦わない。
 その為に、一族の結束力を高めること、それから。
 争いの元になりかねない、本家に生まれた双子はどちらかを処分すること」

「処分するって!
 まさか、殺すとか?」

「いや多分……片方を生まれていなかったことにして、他家へ養子に出す、だと思いますよ」


 フォローのつもりのイアンの言葉だが。
 その言葉にも、ミルドレッドは強く反応した。


「生まれてなかったことに、ってどうやってですか!」

「届けを出さない。
 元々新生児は亡くなりやすいので、誕生から1年が無事に過ぎてから届けを出す家も多いんだ。
 貴族名鑑は情報の宝庫だとギャレットが教えてくれたとミリーに言っただろう?
 あれは公正な情報が載っているからだ。
 主観や忖度や、そんな余分なものは一切なく、ただ名前と生年と享年のデータが載っていて、伝記や家史のように、都合のいい脚色もない。
 だが、やはり短所はあって。
 それは届けられたものしか掲載しないと言うことだ」