「兄様はどうされたのかしら?」

「……明日のディナーは、アクセサリーも控えめに致しましょう」


 主が過保護に構う妹よりも年上のルーシーは、明日の来客を思い出し。
 その意図を理解した。



 そこまで事前に用意していたのに。
 礼儀知らずのイアン・ギャレットは、時間が空いたからと。
 20時半の約束を、先触れも無しに6時間も早くやって来た。
 ……ジャーヴィスの留守中に。



     ◇◇◇



 イアンの来訪を執事のタッカーに告げられた時、ミルドレッドは明るいコンサバトリーで貴族名鑑を読みながら、メモを取っていた。


「ギャレット様は、20時半のお約束だったわね?」

「旦那様も外出されております。
 お断り致しましょうか?」


 しばらくミルドレッドは考えた。
 ギャレット様は約束の時間より随分早くに来られた。
 兄様も居ないことだし、お断りしても失礼にはならないはずだ。
 ……けれど、少しでも早く連絡したいことがあっていらっしゃったのなら?



「……分かりました。
 兄は外出していて、ご用件はわたしがお聞きすることになりますが、それでもよろしければ、とお尋ねして。
 ご了解されたら、ここへお通ししてちょうだい。
 ここなら、ガラス張りで外からも見えるし、個室にはならないわね」