取り敢えず、母には諦めさせた。
 お陰で馬車の中は、兄妹と各々の従者と侍女の4人で済んでいる。
 しかし、ややこしい話はここでは出来ないので、王都に着いてからになる。

 その辺りはミルドレッドも承知しているのだろう。
 従者や侍女の前では、下手な話はしない。



「兄様が貸してくだった貴族名鑑は勉強になりました。
 今までは毎年購入しても、それ程役に立たないと思っていたのですけれど」

「私も若い頃はそうだったよ。
 大して代わり映えのしない内容なのに、と。
 だが、その重要性を教えてくれたのがギャレットなんだ」


 貴族名鑑は、過去も現在も網羅している情報の宝庫だと教えてくれたのは、2学年下の生意気なイアン・ギャレットだった。
 普通なら役所に問い合わせても教えて貰えない、他家の事情が考察出来るからと。



「名前以外なら、どこに注目すればいいですか?」

「名鑑なんて遡ればきりがない。
 今回の元は、3代前のエルネスト伯だ。
 彼と彼の兄のウィラードに絞って、一門の男達の生年と享年を見てごらん」



 先にイアンが調べてくれているだろう事実と、自分の立てた仮説とが、どこまで合っているのか。


 それを知るのは楽しみでもあったが、スチュワートがミルドレッドには隠しておきたかったアダムスの過去を掘り返すようで、心苦しくもあるジャーヴィスだった。