彼は貴族名鑑を眺め続ける午後を過ごして推察された、きな臭いアダムス家の歴史を、ミルドレッドに教えたくはなかった。



「ヴィス兄様は、わたしを傷付ける結果になるなら、全部を話されないでしょう?
 スチュワートがわたしに黙っていたことは隠し子だけじゃなくて、きっと他にも何かあるのです。
 それがあるからローラ・フェルドンを援助したことを、わたしには言えなかった。
 彼が隠していたことを全て、妻であるわたしは知りたい」


 そうすっきりとした表情で話すミルドレッドをジャーヴィスは見た。


「その気持ちはわかるけれど……」

「ギャレット様と一緒に動かれるのでしょう?
 足手まといにならないように努力しますし、そうだと判断されたら、わたしを置いていってください。
 王都邸でいい子にして、お留守番しています」

「……」

「レイウッドの当主夫人は止めましたが、スチュワートの妻は止めないと決めました」



     ◇◇◇



 わたしも一緒に行くわと言い続ける母を、宥めるだけでも一苦労したジャーヴィスだった。
 母が王都入りするとなると荷物や伴う使用人の人数も増え、馬車を2台以上連なって走らせることになり、旅程は最初の予定より2倍近くかかる。
 当事者であるミルドレッドは仕方なく同行させることにしたが、本当はウィンガムで待っていて欲しかった。