なかなかの男振りのイアンだが、覚えていないのは無理もない。
 あの頃のミルドレッドは、自分からの別れの手紙に驚いて学業を放り出してウィンガムに駆けつけた、一途な婚約者のことしか頭に無かったのだから。

 だが、イアンの方はミルドレッドのことなら今でも覚えているだろう。
 まだ15歳だったが、妹は充分男達の目を引いた。


 だからこそ、王都の女子高等学院には入れないでくれと、スチュワートの父親の前レイウッド伯爵から頼まれた。
 全寮制ではあったが、案外異性との関わりが多くある女学校だからだ。



「とにかくギャレットからの連絡を待って私は王都へ行くので、ミリーはゆっくり休んでいなさい。
 決して、君の悪いようにはしない」


 ジャーヴィスがにっこり笑ってそう言ったので。
 これ以上邪魔をしてはいけないと、ミルドレッドは夕食まで自室で渡された名鑑を読むことにした。



     ◇◇◇



 20時からの夕食の席で、その話を持ち出してきたのはミルドレッドだった。
 ダイニングルームでの夕食なので、さすがにドレスに着替えて薄化粧もしている。



「兄様は、あの子がスチュワートの娘ではないと思われていますか?」


 その言葉に母のキャサリンも手を止めた。


「……貴族名鑑を読んで、ミリーは何か気付いたか?」

「ここ最近のアダムスでは、名付けられていない名前がありました」



 良かった、萎れていても妹は馬鹿ではない。
 言われた通りに名鑑に目を通して、それに気付けたか。