ジャーヴィスは何を言うんだと、言いたかったが黙っていた。
 学生時代の役職から、主張したいことがある人間に対する時はいちいち反応するのではなく。
 言いたいことを全て吐き出させてから、同意にしろ反論にしろ話すことを学んだからだ。


「夫の隠し子のことで悩んでいた、と。
 自死したことにして欲しいんです。
 そうすれば、マーチではわたしだけが破門されて、教会で葬儀も出して貰えませんし、家族以外が埋葬に立ち会うことも禁じられます。
 つまり表向きは、何処かへ埋葬したことにしていただけませんか……」


 その先は話すことが無いようなので、ジャーヴィスは怒鳴り付けたいのを耐え、いつもより幼く見えるミルドレッドに微笑んだ。
 相手は、子供を失い、夫にも裏切られて、傷付き。
 婚家から逃げ出してきた精神的に脆くなった妹だ。
 これ以上責めて、追い込めない。



 自死を偽装すること、教会から破門されること。 
 それがどれ程のことなのか、全く分かっていない。
 世の中のことなど何も分かっていないくせに、この家を出ると言った。
 何も出来ないのに、簡単に平民になれると考えているのか。
 貴族としての矜持まで、捨てようと言うのか。


 その甘い見通しをふざけるなと叱る代わりに、彼は妹に微笑んで見せたのだ。